「音大卒」は武器になる を読んで

仕事柄、いろいろな本を読みます。

「音大卒」は武器になる これは武蔵野音楽大学で働く筆者が書かれた本です。少し書評を書いてみたいと思います。

・音楽で食べていくのは非常に困難
・約9割が音楽だけで食べていけない
・音楽を使う仕事への就職に目を向けるべき
・クラシックだけでなくジャズやポップスもやらないと仕事がもらえにくい
・具体的な就職の仕方
・面接でのPR方法
・履歴書の書き方 etc.

この本読んでいて感じたんですが、確かに音大に入って、仕事で困る人は多くはありますが、9割も食べられないということはないと思いますよ? 武蔵野音大生が、音楽で食べていけない と宣伝しているようなものでは。(あ~書いていいのかな!?これ)少なくとも大学の宣伝面でマイナスに働いている気がします。これ見たら、じゃあもっと他の音大に行こうってなるんじゃないかな?

ところで武蔵野音大さんはこのような「現実就職」「音楽もやる」という多様性を重視している音大で、ミナトの「音楽一直線」という考え方とは少し違います。実際 この大学に通っていた友人が何人かいましたが、「音楽レッスンは週1回だけ」だったらしく音大というより一般の大学で音楽のレッスンがちょっと多いだけ という学風からこの本が出来ているのだと思います。

筆者はいかに食べていくべきかということを強調していますが、なんというか音楽に対する強烈な音楽へのこだわりをいまいち、理解していないような気がするのです。例えばクラシックの人にジャズもやれというのは、これまで積み上げてきたものを否定するようなものすごい葛藤を強いるものであったりすることをさらっと書いてしまっているところがとても引っかかりました。

それは確かに、就職としては正解。でも音楽家として正解なのか?とあえて疑問を呈したい。音大にいて、将来が不安な方、音楽で生計を立てるにはとてもいい本だと思います。仕事に困っている音大生個人に対してという意味であれば良書。

しかし、腕があるなら努力すれば音楽だけで生活していく事は可能です。しかも自分の音楽を曲げることなく。クラシックだけやってきた人は、ジャズもポップスもやらなくても十分、きちんと生活は成り立つと思います。実際 ミナトの先生方はみんな音楽のみで生活を送ってらっしゃいますから。

なんだか辛口の批評になってしまいましたが、こだわりを貫き通してクラシックメインで人気を博している音楽教室の言う事なので仕方が無いです。いわば「1割」の中の人ばかりと仕事をしているので。ただ、安易に就職しようという考えの前に、自分が積み上げてきた音楽を何が何でも貫き通して、世に広げようとする事は、その人の生計という枠を越えて、世のため人のためであると思います。

生徒さん目線でいっても、くにゃくにゃと音楽をニーズによって曲げるようなスタイルの先生が増えて来ると、音楽教室もそれに呼応してふにゃふにゃになって、本当にいい音楽を生徒たちに教える事が出来なくなると思います。何十年も培って来た先生方ひとりひとりの音楽を大切に、生徒さんに教える正統派の音楽教室でありたいとミナトは思っています。

自分の音楽のヴィジョンをどう持てるか、そしてそこを切り開いて歩めるか。それがはっきりとしていたら経済的基盤は自然と出来ているのです。そのヴィジョンの力をもっともっと強く信じること。

簡単に言うと、この本は「音大にいっちゃったけど音楽で食べていけないかも 今の社会の中でどう生き抜くか」こういう指摘でその範囲内ではとても良書。しかし「音大に行って、音楽で食べていけるシーンが無いのでいかに社会にそれを求められるようにしようか、社会を変えてやろうか」という社会を変えるという発想をもてばいいのでは。

音大であれば、そういう強いヴィジョンを持った生徒排出にもっと力を入れればいいのに。負けを前提にした戦略のような感じがいまいち腑に落ちませんでした。この本を読んだ人が、音大に行こうと思うかというと、思わないんじゃないかな~。

アマゾンのレビューで他の方のコメントでもありましたが音大卒だから一般の企業で採用したというのは聞いた事がないです。はじめから普通の、いわゆる偏差値が高いといわれている名門大学に進学したほうがよほど現実的だと思います。音楽は趣味程度にしてね。

このようにそもそも音大いかないほうが論に帰結させてしまうという意味でも、やはり同意出来ないところです。その結論に導かれると音大行く人が減る→日本から芸術家が減る という重大な損失に繋がってしまいます。

音楽家はやはりひたすら音楽の腕を磨いて、その音楽でもっていかに社会に貢献すべきかその方法のみを考え抜くべきではないのでしょうか。強烈な意志と努力があれば必ず可能である、としっかりと自信を持って指導しつつ、音楽教育機関もそれをサポートすべくあらゆる努力をすべきだと思います。